
先日、早朝から突然足が立たなくなったとの事で9歳のネコが来院しました。前日までは普通に生活していて、急に元気がなくなり、家を出る直前には両後肢が立たなくなったとの事です。
体温は32.3℃とかなり下がっており、両後肢の痛覚喪失、引込め反射もありませんでした。そして内股動脈も触知出来ませんでした。上半身は正常に動かすことが出来るようで、意識も正常でした。
この症状からネコの心筋症による大動脈血栓塞栓症と仮診断しました。
これはネコの心筋症により血栓ができ、これがネコの場合腹腔内の大動脈によくつまります(他の場所に詰まる場合もありますが)。こうなると突然後肢が麻痺・壊死して行きます。事前に心雑音が聴取されていて、心筋症と診断されていればこの病気のリスクが高いと知らせておくことが出来るのですが、この症例のネコの場合は心音は正常でした。
またこの病気は多くの場合、ある日突然何の前触れもなく発症し、速くて数時間で死亡します。

まず心Echo検査を行いました。心筋壁の肥厚、心室内腔の縮小、両心房の拡大が見られました。
典型的な肥大型心筋症です。心室内に血栓やモヤが見られる事もあるのですが、今回の症例では確認されませんでした。

胸部X線検査では、両心房の拡大があり、「バレンタイン型」と呼ばれる心陰影が見られました。
以上から明らかな「大動脈血栓塞栓症」と診断出来ました。
治療法は開腹し外科的に血栓を取り除いたり、カテーテルを入れフラッシュし血栓を押し出したりする方法がありますが、一般の設備しかない病院では低分子ヘパリン(血栓溶解剤)とアスピリンを投与し、ひたすら血栓が解ける事を祈るくらいしかありません。
もっとも今回の症例の様にすでに体温がかなり下がってしまっている場合は、ほとんどの場合数時間の内に死亡します。例え奇跡的に生き延びたとしても、両後肢が壊死し、再び血栓塞栓が予測されるので、長期・短期ともに予後不良と言わざるを得ません。